| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-131 (Poster presentation)

シカの樹皮剥ぎがヤナギ上の植食性昆虫群集に与える植物を介した間接効果

*田中幹展(北大・環境科学院),中村誠宏(北大・中川研究林)

近年の研究から、哺乳類による食害が植物の可塑的な形質変化を引き起こし、他の植食者によるその後の食害に影響を与えることが明らかになってきた。これまでの研究では、植物の形質変化は植物個体内で均一に生じるとしたものがほとんどであった。しかし、植物の形質変化は植物個体内の空間により異質である可能性がある。本研究では哺乳類による食害として、シカによるヤナギへの樹皮剥ぎに注目し、野外調査と野外実験によりこの問題に取り組んだ。

研究サイトは北海道北部の天塩川沿いの河畔林とした。ヤナギ個体内の空間的に異質な反応として、ヤナギ下部の萌芽枝の生産とその葉形質の変化、およびヤナギ上部の葉形質の変化に注目した。野外調査の結果、シカ樹皮剥ぎはヤナギの補償生長を誘導し、萌芽枝の生産を促進することが明らかになった。人工的な樹皮剥ぎによる野外実験を行った結果、野外調査の結果と一致し、樹皮剥ぎにより萌芽枝の生産が促進されることが示された。人工的な樹皮剥ぎを行ったヤナギの葉の化学形質および昆虫の食害率を調べた。その結果、萌芽枝の葉はヤナギ上部の葉に比べ、タンニンなどの防御物質の含有率が少なく、エサとしての質が高かった。また、萌芽枝の葉の質は樹皮剥ぎが強いほど高く、それに伴い昆虫による葉の食害率も高くなることが明らかになった。一方、ヤナギ上部の葉は萌芽枝の葉とは逆の反応を示した。ヤナギ上部では樹皮剥ぎ強度が強いと葉のタンニン含有率が高くなり、エサとしての質が低下することが明らかになった。またそれに伴い、昆虫の食害率は低下することが明らかになった。

これらの反応は樹皮剥ぎがヤナギの維管束系を破壊することよりヤナギ内の物質輸送を阻害することが原因のひとつだと考えられた。本研究の結果は、ある食害は植物の空間的に異質な反応を引き起こし、その後の食害の空間構造に影響を与えることを示唆する。


日本生態学会