| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-132 (Poster presentation)

ネズミモチと潜葉性昆虫間の拮抗関係 -ラマスシュートの利用は最適な戦略なのか-

*箕浦哲明,綾部慈子,肘井直樹(名大院・生命農・森林保護)

常緑樹は、たびたび春先の新葉(春芽)以外に、ラマスシュートと呼ばれる新葉を遅れて展開する。ラマスシュートは、高栄養といわれる一方で、補償作用として展開するため、量的、時空間的に不安定な資源でもある。そのため、植食性昆虫にとっては一見好適な餌資源にみえるラマスシュートは、その不安定さから、資源競争を高め、個体群の成長を抑制するかもしれない。本研究では、こうしたラマスシュートが、植物と植食性昆虫間の拮抗関係をもたらす一要因である可能性を検証する。

本研究では、モクセイ科常緑樹のネズミモチを利用する潜葉性昆虫Phyllocnistis sp.(鱗翅目:ホソガ科)を対象とした。葉の栄養、防御特性、生産量と、本種メス成虫の産卵場所選択および幼虫の適応度指標(羽化成功率と体サイズ)を調査した。

その結果、ラマスシュートは、同時期の春芽よりも防御特性が有意に低く、しかも高栄養であった。メス成虫は、発生初期には春芽を、発生中~後期では、新規に展開されるラマスシュートを利用していた。こうした利用資源のシフトは、幼虫の生存のためであると考えられる。一方、ラマスシュートの資源量は、常に春芽より少なかった。春芽利用時には産卵が葉の片面にのみに、ラマスシュートでは両面によくみられることから、ラマスシュートの利用は資源競争を激化させている可能性がある。実際、春芽利用個体と比較して、ラマスシュート利用個体の適応度は減少していた。また、羽化成功率の低下は葉の両面利用に、体サイズの減少は葉面積の減少に起因していた。ラマスシュートの量は少ないため、両面利用率が増加するだけでなく、小さい葉も利用せざるを得ず、結果、適応度の減少が生じたものと考えられる。以上より、ラマスシュートは、幼虫の生存には有利である一方、資源競争により個体群全体の成長を抑制している可能性があることが示唆された。


日本生態学会