| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-147 (Poster presentation)

一般的な被食型散布樹種とは異なる果実形態を持つケンポナシの種子散布と発芽特性

*小林峻大,林田光祐(山形大・農)

ケンポナシは、クロウメモドキ科の落葉高木であり、果柄部が甘く肥厚する特異的な果実形態を持つが、哺乳動物の糞から種子が多数見つかっていることから、被食型散布樹種と考えられている。一般的な被食型散布樹種は種子を包む果肉によって発芽を抑制しており、動物の被食による果肉除去が発芽を促進する。しかし、ケンポナシは種子を包む果肉がないため、果肉除去とは異なる発芽促進効果として、被食が種皮へ物理的損傷を与える可能性が考えられる。本研究では、ケンポナシの種子散布者を明らかにした上で、被食された種子と人為的に種皮へ傷をつけた種子を用いた発芽実験によって、ケンポナシの発芽特性を検討した。

ケンポナシの樹冠下に落下した果実を食べにくる動物を自動撮影装置によって撮影し、各動物種の利用頻度を計測した。さらに、その周辺にて動物の糞を採取し、糞に含まれるケンポナシの種子数を数えることで、主な種子散布者を推定した。発芽実験は室内と野外にて行い、動物の糞から採取した種子(以下、被食種子)と落下した果実から採取した種子(以下、落下種子)の発芽率を比較した。また、室内ではカッターで種皮へ傷をつけた種子(以下、傷つけ種子)と傷をつけていない種子の発芽率も比較した。

自動撮影装置と糞分析の結果から、ケンポナシの果実は多くの哺乳動物に利用されており、糞中の種子出現率が高かったタヌキとハクビシン、個体数が最も多く確認されたニホンザルが散布者として重要であると考えられる。被食種子と落下種子の発芽率は室内実験ではともに5%未満であり、野外実験でも被食種子6%、落下種子16%となり、被食による発芽促進効果は認められなかった。しかし、傷つけ種子は50%前後の種子が発芽したことから、ケンポナシは被食とは異なる種皮への物理的損傷、例えば河川の氾濫による攪乱によって種皮に傷がつき、発芽が促進すると推測される。


日本生態学会