| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-217 (Poster presentation)

ヒノキ人工林におけるニホンジカ‐下層植生‐節足動物群集間の関係

*片桐奈々 (名大院・生命農・森林保護), 野々田稔郎 (三重県林業研究所), 肘井直樹 (名大院・生命農・森林保護)

近年、ニホンジカの採食による森林の下層植生の変化・衰退が日本各地で報告されている。このような下層植生の改変は、森林生態系内の食物網や生物間相互作用を通して、他の生物や生態系そのものに直接的、間接的に影響を及ぼすものと考えられる。しかし、日本の人工林では、シカの採食が生態系の構造や機能に及ぼす影響はほとんど明らかにされていない。そこで本研究では、人工林における下層植生上の節足動物に着目し、シカの採食が下層植生の変化を通して節足動物群集にどのような変化をもたらしているのかを明らかにすることを試みた。

調査は、シカが高密度に生息する三重県津市白山町の42年生ヒノキ人工林で行った。本調査地には、防鹿柵を設置後約5年経過した柵内調査区と、その外側の調査区が設置されている。2012年8月に各区において、下層植生(植生量・種多様度・物理的構造)と節足動物群集を機能群(植食者、捕食者、その他、の個体数)ごとに調査した。シカによる下層植生の変化が節足動物群集にどのような影響を及ぼしているか解析する際、植生量と種多様度については単位土地面積当たり、物理的構造については単位植生量当たりというスケールで行った。

単位植生量当たりにおいて、シカによる採食は下層植生の物理的構造を複雑にし、植食者やその他の個体数を増加させていた。またその結果、それらを餌とする捕食者の個体数を増加させている等が明らかとなった。土地面積当たり、植生量当たり、いずれの示標においても、シカの採食の影響がカスケード的に上位の栄養段階に及んでいる可能性が示唆された。


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