| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-236 (Poster presentation)

ナミアゲハの季節多形が生じる要因

*古俣慎也,曽田貞滋(京都大・理・動物生態)

昆虫の季節的な環境変化への対応の一つとして季節多型があり,季節変化への適応的反応であると考えられている.しかし,成虫の季節多型は,成虫期に適応的であるとは限らない.つまり,幼虫期の適応の副産物である可能性もある.よって,季節多型に見られる形質の変化を生活史全体から評価することは重要である.

チョウ目アゲハチョウ科のナミアゲハ(Papilio xuthus)では,春型と夏型が知られている.越冬休眠後の第1化では春型が出現し,それ以降は夏型が出現する.春型は夏型に比べて体サイズが小型である.春型と夏型の出現は幼虫期の日長によって調節されており,幼虫期に短日条件にさらされると蛹が休眠に入り,休眠覚醒後に春型が出現する.しかし,越冬世代は短日日長だけではなく,低温も経験する.成虫の体サイズの季節多型は温度によってもたらされるかもしれない.

そこでナミアゲハ成虫の体サイズ多型が生じる要因を幼虫期の低温と越冬休眠という視点から明らかにしようと試みた.温度が発育に与える影響と蛹の休眠耐性を調べる為に,幼虫の飼育実験・蛹の過冷却点の測定を行った.

幼虫の飼育実験の結果,蛹化時の体重は日長・温度・性別の影響を受け,低温の影響で蛹重量は減少した.また,孵化から蛹化までの発育期間は,短日条件下で短くなることがわかった.一方,体サイズの過冷却点への影響は認められなかった.以上から,冬に備え安全に越冬する為に,幼虫期間を短くすることが適応的であり,春型の小型化は,それによる発育期間の制限から生じると考えられる.


日本生態学会