| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-241 (Poster presentation)
繁殖時の巣作り(造巣行動)は、子の保護を目的として行われる一般的な行動である。例えば魚類では、サケの仲間はメスが産卵床(巣)を、トゲウオの仲間はオスが巣を造成する。これらの造巣行動は一般的に雌雄のどちらかが行い、もう一方の性は巣作りに参加しない。また、同性内、特にオス同士で協力して造巣する例は様々な分類群を見わたしても非常に少ない。しかし、本研究の対象生物であるヤツメウナギは複数の雌雄が協力的に石を運び産卵床を造り、そこで入り乱れて複数回の交尾(乱婚)を行う。多い時には数十匹の個体がひとつの産卵床で数百回の交尾を繰り返す。しかし、複数の雄が協力行動を行う中で、雄は自身の努力量に見合った利益を得ているかは不明である。本研究では、協力的な雄がより多くの利益(繁殖成功)を得ているという仮説を立て実験を行った。2012年4‐6月に北海道大学苫小牧研究林内の実験水槽を用いて繁殖行動の観察を行った。実験には個体識別をしたシベリアヤツメの雌雄4個体(雄3、雌1)を用いた。造巣の為に運んだ石の数と交尾回数を個体毎に記録した。各交尾で放卵された卵はスポイトで採集し数を数えた。実験の結果、卵を出さない産卵行動が多数行われていること、雄は受精の際に2種類のスニーキング行動を行うことがわかった。また、石運び数と総交尾回数の間に正の関係が認められた。さらに、スニーキングの受精率が高いと仮定すると、協力的な雄ほど獲得卵数が多くなることが明らかとなった。以上のことから、ヤツメウナギは基本的に乱婚であるが、雌が雄の協力行動に応じて交尾や排卵を調節している可能性が示唆された。