| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-247 (Poster presentation)

冬眠中に確認されたコキクガシラコウモリの発情

*佐藤 雄大, 関島 恒夫 新潟大(自然科学)

冬眠は哺乳類に属する多くの目において確認されている生理現象で、低体温・低代謝の状態が数日から数週間にわたって維持されることが特徴である。一般的に、冬眠に伴うこのような生理的変化は、多大なエネルギー消費を要する繁殖行動を阻害することが多く、特に、配偶子形成を促進する性ホルモンの産生および分泌は、冬眠期に行うことはできないと考えられてきた。著者らは、2011年6月より毎月1回の頻度で、コキクガシラコウモリを対象に、生殖器の外部形態にみられる特徴の季節的変化を調べることで、本種の繁殖サイクルを明らかにする調査を行ってきた。その結果、温帯棲コウモリの一般的な発情期とされる8‐10月に加え、1‐2月に捕獲されたオス個体の50%、メス個体の20%から発情の兆候が確認された。また、同時期にサーモグラフィを用いて越冬生態を調べた結果、観察個体の55%が、10日間以上の冬眠を行っていたことが分かった。先行研究では、温帯域に生息し、かつ冬眠を行うコウモリは、冬眠期に配偶子形成を行うことはできないと考えられている。本種が冬眠期に配偶子形成を行っているとすれば、性ホルモンの産生、分泌に関わるプロセスにおいて、他の温帯棲コウモリにはない生理メカニズムを獲得している可能性が高い。そこで著者らは、本種の冬眠期における発情をさらに高い精度で明らかにするため、2012年の冬期に、冬眠が確認された個体を対象として、生殖器の組織顕鏡および性ホルモン濃度の分析を行い、配偶子形成の有無を調べた。本ポスター発表では、冬眠個体から採取した生殖器の組織顕鏡および性ホルモン濃度の分析結果を示すことで、温帯棲コウモリでは初となる冬眠時発情の実態を明らかにするとともに、冬眠期において発情を可能にする生理的メカニズムについて考察する予定である。


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