| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-248 (Poster presentation)

タンガニイカシクリッド N. obscurus の社会構造

*田中宏和(大阪市大・理),武島弘彦(東大・大気海洋研),安房田智司(新潟大・理),武山智博(大阪市大・理),西田睦(東大・大気海洋研),幸田正典(大阪市立大・理)

多くの脊椎動物の子育ては両親または片親のみで行われるが、いくつかの動物ではヘルパーと呼ばれる親以外の個体が子育てに参加することが知られている。この繁殖様式は協同繁殖と呼ばれ、哺乳類、鳥類では多くの報告があるが、魚類ではアフリカのタンガニイカ湖に生息するカワスズメ科魚類数種が知られるのみである。このカワスズメ科魚類では他にも協同繁殖を行なっている種が存在する可能性がある。今回演者らはその一種である Neolamprologus obscurus を対象にその社会構造を調べ、本種が協同繁殖を行なっているかどうかを検討した。

同湖本種の生息場所で各個体を個体識別し、行動観察した。その結果、大型オス個体がそれぞれ複数のメス個体の縄張りを取り囲む形で縄張りを持ち、かつそれらの約半数のメス個体のなわばり内には、複数の小型個体が観察された。これらの小型個体は、縄張りが重複するメス個体と共に縄張りの防衛や維持を行なっており、ヘルパーであると考えられた。また、マイクロサテライトを用いた遺伝子解析から血縁度を調べた結果、縄張りが重複する小型個体と雌雄個体間では、縄張りが重複しない個体間と比較して血縁度が高いことが分かった。以上から、本種は一夫多妻の血縁ヘルパー型協同繁殖を行なっていることが示唆された。また体長、縄張り位置、血縁度の結果から、幼魚は成長後、メスの方がオスよりも早く出生縄張りから分散し、早く繁殖を開始すると考えられた。さらに、本種は今までに知られている協同繁殖を行なう種とは系統的に異なっており、本族では協同繁殖様式が少なくとも4回、進化してきたことが示唆された。


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