| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-251 (Poster presentation)

イラガ科2種の繭生態

*古川真莉子(京大・農・昆虫生態),西田隆義,松山和世,日高直哉,中西康介(滋賀県大・環境科学),松浦健二(京大・農・昆虫生態)

イラガMonema flavescensは日本・朝鮮半島・中国・シベリア南東部に自然分布している在来種である.一方,近縁種であるヒロヘリアオイラガParasa lepidaは1980年以降に関西地方で爆発的に発生した外来種である.両種は食性をはじめ,越冬段階,天敵など似た生態を持っているが,繭の形質には大きな相違がある.イラガは固くて頑丈な繭を形成する一方,ヒロヘリアオイラガは薄く偏平な隠蔽度の高い繭を形成する.また,イラガの繭は様々な斑紋を有する.本発表では,同所的に生息するイラガとヒロヘリアオイラガの繭期における捕食率と,イラガの繭の斑紋と捕食率との関係を検証した.大阪,京都,滋賀の計5地点にて公園などに植栽された樹木を対象に調査を行った.各調査株において,繭の形成数やそれらが付着していた高さ,枝太さ,枝の分枝回数,繭の向きを記録した.繭の痕跡をもとに羽化や死亡などの状態を記録した.また,イラガの繭の模様について,模様の鮮明さ,褐色の割合,模様のパターンなどを記録し,繭の長径と短径を計測した.

ヒロヘリアオイラガはほとんどの繭が鳥類の捕食によって死亡していた.一方イラガは鳥類と寄生蜂が主な死亡要因であったが,死亡率はヒロヘリアオイラガよりも低かった.イラガの斑紋と死亡要因との関係を調べたところ,斑紋が明瞭な繭は鳥類による捕食が少なく寄生蜂による捕食が多かった.これらのことから,ヒロヘリアオイラガは隠蔽度が高いにも関わらず,鳥類に選択的に捕食され,同所的に生息するイラガの捕食率が低下していたと示唆された.また,イラガの繭の明瞭な斑紋は鳥類に対して捕食者回避に正の効果があることが示唆された.


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