| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-299 (Poster presentation)

マイクロサテライトマーカーを用いたナガレホトケドジョウの遺伝的多様性の解析

*猪塚彬土, 平井規央,石井実(大阪府大・生環)

ナガレホトケドジョウLefua sp.はタニノボリ科に属する日本固有の純淡水魚である.本種は山間の河川の上流域を生息場所とするが,人為的影響による生息環境の悪化により各地で個体数が減少しており,環境省の絶滅危惧IB類にランクされている.本研究では本種の遺伝的集団構造を解明するためにマイクロサテライト分析を行い,適切な管理単位を設定するための知見を得ることを目的とした.生息調査およびサンプリングは,2011-2012年に大阪府北部から兵庫県東部にかけての加古川,武庫川,猪名川の3水系計20支流において行った.得られた計301個体の体表粘膜からDNAを抽出し,Koizumi et al. (2007) および小出水ほか (2008) においてホトケドジョウL. echigoniaの塩基配列を基に設計された6組のプライマーセットを用いてマイクロサテライト分析を行った.その結果,各水系,各集団に固有のアリルが複数認められた.集団間の遺伝的差異は,190の組み合わせのうち,ペアワイズFST値において131組,RST値において46組の各水系の集団間,集団内において,有意な遺伝的分化が認められた.個体群を3水系に分けて分子分散分析を行った結果,3水系間での遺伝的変異が全個体群における遺伝的変異の約13%を占め,水系間での遺伝的な分化が示された.Neiの遺伝距離に基づく近隣結合樹では,3水系から得られた20集団は3つのクレードを構成し,一部の集団を除いて水系ごとに分岐した.主成分分析において,第1,第2主成分は,それぞれ変異の42%,27%を説明し,それらの得点を基にした散布図では,近隣結合樹と同様に,ほぼ水系ごとに3集団に分かれた.以上のように,本種は水系ごとに遺伝的なまとまりをもつことから,これらを管理単位として保全を行うことが適当であると考えられる.


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