| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-337 (Poster presentation)

保護区の設定か共存か?‐人工林の集約度に対する鳥類の反応‐

*吉井千晶(北大・農),山浦悠一,曽我昌史,澁谷正人,中村太士(北大院・農)

近年、同一景観内で資源生産と生物多様性保全をいかに両立させるかが大きな注目を集めている。多様性の損失を最小限に抑えた資源の生産方法について、Green et al. (2005) は、同一の土地で資源生産と多様性保全の両機能を発揮させる「土地の共有(Land Sharing)」戦略と、資源生産と多様性保全の場を分離し、各々の土地利用を専門化させる「土地の節約(Land Sparing)」戦略を提唱した。作物収量の増加に対して生物個体群密度が凸型に減少する際には土地の共有、凹型に減少する際には土地の節約戦略が優れることを彼らは理論的に示した。この議論に基づいて、本研究では、人工林において木材収量に対して鳥類の個体数がどのように変化するのかを明らかにし、森林景観での鳥類の保全戦略について議論する。

鳥類調査と毎木調査を北海道のトドマツとアカエゾマツ人工林、天然林の計25か所で行った。鳥類の機能群毎の個体数を応答変数、各調査区の植栽針葉樹の胸高断面積合計を説明変数とし、最小二乗法を用いた一次・二次回帰モデルを用い、植栽針葉樹量と鳥類の個体数の関係をモデル化した。

本調査地では、植栽針葉樹量と混交広葉樹量の間に負の関係がみられた。多くの鳥類機能群の個体数が植栽針葉樹量の増加に伴い線形減少し、土地の共有―節約戦略に優劣関係はみられなかった。既往研究では、土地利用の集約に対する生物個体群の反応は凸型か凹型に二分され、共有・節約戦略のどちらが保全上優れるかという二極化した議論が行われてきた。本結果は、生物多様性保全に配慮した森林景観の管理を行う際には、線形の反応も考慮に入れ、木材収量と多様性以外にも社会経済的背景や気候や地形等の地域的な要因を考慮する必要があることを示唆する。


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