| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-388 (Poster presentation)

湿原生態系の炭素循環と環境要因の関係

井上 晃**1、黒川 紘子※1,彦坂 弘毅※2,福澤 加里部※3,柴田 英昭※3,中静 透※1(※1東北大院・生命・植物生態,※2東北大院・生命・機能生態,3北大・北方生物圏フィールド科学センター・森林圏ステーション)

湿原は低温・貧栄養な環境によりリター及び泥炭の分解速度が低く、大気中の炭素を蓄積する。しかし、近年の温暖化と窒素性降下物の増大により、微生物活性の制限要因が緩和され、今後分解速度が増大し湿原が炭素のシンクからソースへと変わることが懸念される。このため炭素放出速度の大小の決定要因を解明することは、湿原の炭素収支を予測するために重要である。

この研究では温度と栄養条件、植生の異なる湿原間において地上部純生産速度、土壌呼吸速度、リター分解速度の違いを比較し、炭素収支に関係する要因を明らかにする。さらに、湿原間の土壌呼吸速度の温度応答性の違いから、気候変動に伴う炭素収支変化を予測する基礎とする。

青森県八甲田山周辺の標高570m~1250mに位置する15湿原において、地上部純生産速度、リター分解速度、土壌呼吸速度を測定した。

その結果、地上部純生産速度はpHと正に相関している一方、土壌の無機窒素濃度との間には相関はなかった。また積算地温との間にも相関はみられなかった。落葉分解速度については、環境条件との間に相関はみられなかった一方、落葉の窒素濃度と分解速度に負の相関があり、落葉のリン濃度と分解速度に正の相関がみられた。また、葉サイズと分解速度には正の相関がみられた。土壌呼吸速度は、無機窒素濃度の高い湿原で温度上昇によるCO2放出量の増加量が大きいことが明らかになった。

以上より、温暖化の影響を軽減するためには、窒素降下物などによる富栄養化を抑えることが重要だと考えられる。また、気候変動による炭素放出量の変化予測においては、その場所の栄養条件と植生を十分考慮する必要がある。


日本生態学会