| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-038 (Poster presentation)

豪州ヒノキにおける集団デモグラフィの地理的変異はどのように形成されたのか?

*阪口翔太 (京大院・農), Lynda Prior (タスマニア大), Michael Crisp (オーストラリア国立大), David Bowman (タスマニア大), 津村義彦 (森林総研), 井鷺裕司 (京大院・農)

豪州ヒノキ複合種はオーストラリア全域に分布する針葉樹である.この複合種は世界で最も耐乾性の高い種を含んでいるにも関わらず,大陸内陸部での分布は極めて分散的である.本複合種が他の樹種に比べて火災に脆弱であることを考えると,最終氷期に到来した人類による火災レジームの改変が本種の分布パターンを生み出した可能性がある.その一方で,厳しい乾燥化によって最終氷期の大陸内陸部では砂漠が拡大したと考えられており,そうした気候変動も分布に影響した可能性がある.本研究では,大陸全域から収集した集団サンプルを遺伝解析することで,最終氷期における豪州ヒノキ複合種の集団デモグラフィを推定するとともに,生態ニッチモデリング(ENM)を用いて最終氷期における古分布を再現した.遺伝解析の結果,大陸の各山地域には遺伝的に分化した系統が多数分布しており,最終氷期を通じて地域集団がその場で分布を維持してきたことが明らかになった.しかしENMの予測から,大陸内陸部では最終氷期最盛期に分布域が大きく縮小したことが示され,実際にそうした地域集団の大半で著しい集団サイズの減少が推定された.より沿海部に位置していた南部温帯域では,最終氷期の終焉と共に集団サイズが拡大したことが示され,このパターンは花粉分析の結果とも一致した.一方,人類による土地利用の歴史が最も長く,高い火災頻度に特徴付けられる熱帯サバンナでは,集団サイズは安定していたことが示された.これらの結果から,豪州ヒノキの集団デモグラフィと分布パターンには人類による火災レジームの改変よりも,最終氷期における乾燥化がより強く影響したことが推察された.


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