| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-051 (Poster presentation)

白山のクロユリ(Fritillaria camtschatcensis )生育地における雪どけ時期と開花時期の年変化

*野上達也,吉本敦子(白山自然保護センター)

白山におけるクロユリ(Fritillaria camtschatcensis)の生育地の地表面に温度センサーを設置した(標高2,070m~2,530m)。クロユリが生育する雪田植生が広がる場所においては、積雪時には地表面温度はほぼ0℃で安定しているが、積雪がなくなると急激に温度変化が見られることから雪どけ時期を推定することができる。調査地のうち、水屋尻調査地(標高2,450m)では、機器の故障により欠測の年もあるが、1994~2012年のデータがあり、その結果をみると、雪どけが異常に早かった1998年は5月17日であるが、それ以外の年は6月下旬~7月上旬で大きな変化はなく、近年、雪どけが急激に早まっているということはなかった。また、2004年からの複数個所での雪どけ時期を比較してみると、その変化はほぼ同調的で、雪どけが早い年は、どの調査地においても雪どけは早く、雪どけが遅い年は、どの調査地でも雪どけは遅くなっていた。一方、クロユリの開花時期については展望歩道調査地(標高2,440m)で、現地調査を行うとともに、自動撮影カメラを用い、特定した。その結果、クロユリの開花時期は、雪どけ時期と相関があることが明らかとなった。水屋尻調査地で雪どけが約1か月早かった1998年は、展望歩道調査地では雪どけ日は不明であるが、クロユリの開花は6月29日で、その他の年に比べ約1か月早かった。1998年以外の年では7月下旬から8月上旬で、近年、クロユリの開花が急激に早まっているということもなかった。これまでのところ白山では雪どけ時期やクロユリの開花時期について大きな変化は見られないが、地球温暖化の進行により、高山帯の積雪環境や高山植物の開花フェノロジーがどのように変化していくかは不明なことも多く、今後も継続して調査を行っていくことが必要である。


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