| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-053 (Poster presentation)

高緯度北極の氷河後退域におけるSalix arcticaリターの化学的変化と菌類定着

*大園享司(京大・生態研),広瀬大(日大・薬),内田雅己(極地研),神田啓史(極地研)

カナダ高緯度北極のツンドラにおいて優占するSalix arcticaを材料に、その落葉・枯死幹の分解にともなう化学的変化と菌類定着との関係を調べ、分解に果たす菌類の役割を推定した。調査地はカナダ国ヌナブト準州エルズミア島のオーブロヤ湾付近(北緯80.5度)に位置する氷河後退域である。2003年7月に、氷河末端からの距離(氷河後退後の年数)が異なり植生・土壌の発達程度に違いの認められる5立地において試料を採取した。目視により落葉は3段階、枯死幹は5段階の分解段階に区分し、実験室に持ち帰って有機物組成、養分濃度、菌糸長の測定および菌類の分離に供試した。落葉と枯死幹のいずれにおいても、酸不溶性残渣とアルコールベンゼン抽出物の濃度は立地間と分解段階間の両方で有意な変動が認められた。全炭水化物、N, P, K, Ca, Mgの各濃度、C/N比およびδ15Nは立地間あるいは分解段階間で有意な変動が認められた。全菌糸長は落葉で673〜9470m/g、枯死幹で537〜4404m/gであり、分解段階間で有意な差が認められた。落葉と枯死幹から4形態種が高頻度で分離され、うち2形態種の頻度について分解段階間で有意な差が認められた。全菌糸量と菌類形態種の頻度と、化学成分の濃度とのあいだに有意な相関関係が認められたことから、菌類の定着と化学的変化との関連性が示唆された。分離菌株を用いた接種試験により、高頻度で出現する形態種が落葉の全炭水化物を選択的に分解することが示された。


日本生態学会