| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-090 (Poster presentation)

異なる土壌水分条件下でのカバノキ属2種の個体生長と水分生理特性

*田畑あずさ,小野清美,隅田明洋,原登志彦(北大・低温研)

ダケカンバ(Betula ermanii)とシラカンバ(Betula platyphylla)は,温帯から亜寒帯地方に生育するカバノキ属の落葉広葉樹である。この二種は葉の形や幹の色などが似通っているが,生育地は光合成適温域の違いによって寒冷地を好むダケカンバと,温暖な地を好むシラカンバに分けられる。ダケカンバが生育する寒冷地の気候特色には「低温」の他に「乾燥」があり,ダケカンバは前年に乾燥処理を受けることによって,翌年に展開する葉の光合成速度が低下せず,細長い根を生長させることが明らかになっている。同様にシラカンバでも,乾燥条件下において根系を発達させていることが知られているが,2種ともに水分条件変化に対する個体全体への影響は十分に調査されていない。そこで本研究では,異なる土壌水分条件で生育したダケカンバとシラカンバの苗木を用いて,光合成機能や水分生理,個体の生長応答を調査し,二種の生育地を分ける要因として乾燥の影響があるのかを検討した。

個葉の応答では,乾燥処理個体の最大光合成速度,蒸散速度,気孔コンダクタンスは2種ともに低下し,葉の水ポテンシャルの値はシラカンバの乾燥処理個体で低下する傾向を示した。個体全体の応答では,2種ともに乾燥処理個体の生存率が低下し,基部直径や当年枝の長さはシラカンバの乾燥処理個体で低下を示した。以上の結果から,異なる土壌水分条件は2種の光合成機能に影響を与える一方,葉の水分保持や個体生長にはシラカンバのみに影響を与えることが明らかになった。発表ではこれらの光合成機能応答や形態的変化の他に,光合成機能低下による光阻害を防ぐための過剰光エネルギー防御機能反応や葉寿命の調査結果を加えて,土壌水分条件変化に対する応答の違いから,カバノキ属二種の生育地を分ける要因について議論を行う予定である。


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