| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-093 (Poster presentation)

樹木水平枝の軸に沿った力学状態の変遷

*南野亮子,舘野正樹(東大院理・日光植物園)

枝は周囲の環境による力学的なストレスに耐えうるものでなければならない。枝の形態形成における力学的制約の原理に関する仮説に、弾性相似仮説というものがある。これは荷重による枝の先端の変位が枝長さに比例する、すなわち変形前の形が同じ枝はサイズによらず枝全体での変形後の形が同じになるということである(McMahon and Kronauer 1976)。一方で、枝はどの部分でも荷重により生じる応力が一様になるような形態をとるという一様応力仮説(Metzger 1893)も存在する。著者の過去の研究においても、応力がある程度一様になることを示唆する結果が得られている。

本研究では、日光植物園内のブナ・ウラジロモミの水平枝に関して、付け根から先端にかけて複数の位置において自重を解放した時の表面の軸方向の伸びあるいは縮みをひずみゲージを用いて測定した。この測定データから自重解放時の枝のそれぞれのセクションにおける曲率変化を計算し、全体の形の変化に関して枝同士での比較を行った。曲率変化はどの枝でも付け根で若干大きく、若干付け根から遠い位置でやや小さく、それより先端に近いところでは先端に近づくにつれ大きくなっていた。

また、一様応力に関しては、枝に内在する応力も考慮する必要がある。枝内部にはあて材と呼ばれる特殊な材が存在し、内部に不均等な応力を生じさせているといわれている。本研究では、上記の測定データと過去に得られた枝のヤング率・強度のデータから重力解放により枝表面に生じた応力を計算し、これを枝の自重により生じるモーメントの実測から計算された応力と比較した。これらの応力のうち、前者はあて材の存在を反映するが、後者は反映しない。計算の結果では、前者のみが枝の付け根(φ>5㎝)において他の部分よりも極端に大きな値をとっており、この部分におけるあて材の存在が枝表面の応力に大きな効果を持つことが示唆された。


日本生態学会