| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-103 (Poster presentation)

海産緑藻エゾヒトエグサの繁殖戦略と配偶子生産

*富樫辰也(千葉大・海), 堀之内祐介, 宮下紘樹, 青山峻(千葉大・理)

海産緑藻エゾヒトエグサ(Monostroma angicava)の繁殖戦略について、特に配偶子の生産に着目した研究を行った。雌雄の配偶子のサイズの平均値には大きくはないものの有意な差があるため、これまで本種の配偶システムは単にわずかな異型配偶とされてきた。本研究では、配偶子形成過程を詳細に定量化することによって、本種の繁殖戦略と配偶システムを再考する。エゾヒトエグサは、雌雄異体で多細胞の配偶体(N世代)と単細胞で微視的な胞子体(2N世代)から成る異型世代交代を行う。雌雄の配偶体から得た成熟した配偶子嚢の一部を、固定したのちサイズを計測し、蛍光色素(DAPI)で配偶子の核を染色して配偶子嚢の内部に形成された配偶子の数を調べた。残った配偶子嚢からは配偶子を放出させた。配偶子の一部は固定したのちサイズを計測した。残った配偶子は、PES培地中14˚C長日条件下で培養した。配偶子嚢のサイズは、雌のほうが雄よりも有意に大きかった。1個の配偶子嚢の内部に形成されていた配偶子の数は、雌では32(=25)個もしくは64(=26)個、雄では64(=26)もしくは128(=27)個であった。それぞれの割合は、雌においては、32個:64個⋍1:9、雄においては、64個:128個⋍1:9であった(n=1000)。これらの結果から、1)雌雄の配偶子はともに同調的な細胞分裂を経て形成され、2)その分裂回数は雌雄で異なり、3)雌雄ともにばらつきがあることがわかった。これらのデータを基にして予測した配偶子サイズの分布は、実際の計測結果をとてもよく説明した。エゾヒトエグサは、これらの配偶子を雌雄で組み合わせることによって幅広いサイズの接合子を作り出している。その一部には、雌雄で大きさのほとんど異ならない配偶子どうしが接合したものも含まれていると考えられる。


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