| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-125 (Poster presentation)

火山荒原に分布するシモフリゴケの生育立地と環境改善機能

*南 佳典(玉川大・農),勝又暢之(玉川大・農),沖津進(千葉大・園)

富士山北西斜面は,しばしば雪崩による大規模撹乱で被害を受ける.雪崩の流路から外れた尾根地形には植生が半島状に残されるが,その森林限界線の上昇は表土の不安定性などの過酷な環境要因によって極めて遅い.パイオニア種である樹木実生が火山荒原に侵入し定着するには,より初期に侵入できる植物による定着促進効果が重要な要因となる.本研究は,定着促進効果が期待できるシモフリゴケによる環境改善機能を明らかにし,遷移段階初期の遷移メカニズムを解明することを目的とする.著者らは,すでに火山荒原に分布するシモフリゴケによる実生定着促進効果の可能性について発表してきたが,今回はとくに地表面温度が過酷になる夏期および冬期における地温変化の影響を中心に検討した.

樹木実生は,基本的にシモフリゴケパッチ内の方が裸地に比べ多く出現しており,個体サイズでもパッチ内の方が顕著に大きいことがわかった.風衝側と風背側を分けて検討した場合,いくつかの例外を除き個体数に大きな差は見られなかった.しかし,個体サイズでは風衝側でダケカンバが有意に大きく,カラマツやミネヤナギにも同様な傾向がみられた.パッチサイズの増加にともなう個体数の増加は風衝側のパッチ内で顕著であったが,反対に裸地では相関が見られなかった.地温の変化では,夏期における日較差は風衝および風背ともにパッチ内の方が裸地に比べ小さく,凹地よりも平地の方でその傾向は大きかった.冬期でもパッチ内の方が温度変化は小さく抑えられていたが,最低温度は裸地およびパッチともに約-15~20度となった.

シモフリゴケによる定着促進効果は,風衝側と風背側の両方で確認され,とくに風衝側でその効果が高いことが確認できた.この効果は,シモフリゴケパッチが形成されていることによる夏期の地温上昇やそれに伴う乾燥の緩和が大きな要因であると考えられる.


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