| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-128 (Poster presentation)

亜高山帯針葉樹林におけるニホンジカによる剥皮発生に影響する要因

*飯島勇人,長池卓男(山梨県森林研)

近年増加傾向にあるニホンジカは、高山帯などこれまであまり分布していなかった場所にも出没し始めている。ニホンジカは森林内で休息するため、高山帯に近い亜高山帯針葉樹林でもニホンジカによる摂食圧が発生していると考えられる。しかし、ニホンジカの摂食圧が亜高山帯針葉樹林の植生に与える影響については、報告例が少ない。本研究では、南アルプス国立公園北沢峠付近の亜高山帯針葉樹林において、標高別に成木、稚樹の摂食状況とニホンジカの糞粒数を調査した。当該地域はニホンカモシカも生息しているが、自動撮影カメラの撮影枚数はニホンジカの方が圧倒的に多かった。標高2000m付近および2500m付近に、10x40mの調査区をそれぞれ14、11個設置し、成木(地上高1.3mの直径3cm以上)および稚樹(樹高30cm以上)のサイズ(成木は周囲長、稚樹は樹高)、樹種、剥皮率(周囲長に対する剥皮部分の割合)を調査した。また、調査区内の5x40mの範囲で、ニホンジカの糞粒数を調査した。調査時に枯死していた稚樹の89%は剥皮されていた。糞粒数は、標高が高い調査地で少ない傾向が見られた。稚樹密度は、調査区内の糞粒数が多いほど少なかった。稚樹は、樹高が高く調査区内の糞粒数が多いほど剥皮される確率が高かった。また、調査した樹種の中では、オオシラビソ、コメツガが剥皮されやすく、シラビソ、トウヒが剥皮されにくかった。一方、成木は、周囲長が短く(細い)、調査区内の稚樹密度が低いほど剥皮やされやすかった。亜高山帯では、ニホンジカの摂食によってまず稚樹が減少し、稚樹の減少に伴って細い成木から剥皮されていくことで、特に小サイズの個体が消失すること、嗜好性の高い種が優先して摂食されることで、林分の樹種構成が変化する可能性が示唆された。


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