| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-144 (Poster presentation)

阿蘇外輪山における希少植物の残存個体群に内在する絶滅の負債:草原生植物5種を対象としたextinction debtの検出

*小柳知代(早稲田大),赤坂宗光(農工大),伊勢紀(地域環境計画),小熊宏之(国環研)

希少植物の地域個体群を維持していくためには、現在の生育地を重点的に保全していけばよいのか、それとも更なる生育地を再生する必要があるのかを適切に判断する必要がある。本研究では、阿蘇地域の希少植物5種を対象として、生育地面積の減少と個体群分布域の変化との間に存在するタイムラグ(絶滅の負債:extinction debt)を検出することで、重点的な保全策をとるべきか、積極的な再生が必要となるのかを種ごとに検討することを目的とした。半自然草原に該当する荒地の面積は、1900年代から1950年代にかけて対象地域の約70%を占めていたものの、1970年代以降は約35%に半減していることが分かった。希少植物5種のうち、マツモトセンノウ、ヒメユリ、ヒゴタイの3種は、1990年代から2000年代にかけての残存個体数が大規模な土地利用変化が起こる前の1930年代や1950年代の周辺の荒地面積と有意な正の関係性を示し、生育地が減少してから個体群が減少(消失)するまでに50年以上のタイムラグがあることが示唆された。ヤツシロソウは変化後1970年代の荒地面積と最も有意な関係性を示したのに対して、ハナシノブは、周辺の荒地面積とは有意な関係性を示さなかった。タイムラグを示した3種については、現状の生育地を保全するのみでは、地域に残存する個体群を維持することが困難だと考えられ、生育地を積極的に再生していくことが望まれる。一方、タイムラグが短かったヤツシロソウについては、現在の生育地を重点的に保全すれば残存個体群を維持していくことも可能であることが示唆された。


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