| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-149 (Poster presentation)

過去の写真で探る高山植生の変化

*下野綾子(筑波大・遺伝子セ), 小熊宏之(環境研), 米康充(島根大)

近年、世界各地の高山帯で植物群集の変化が報告されるようになった。これらの変化は過去の記録があるからこそ検出できるのであり、多くの高山地域では変化の有無を判断する科学的な調査が不足している。この不足を補えるのは、唯一過去に撮影された写真であり、写真は調査記録に代わる客観的な記録となりえる。そこで、発表者らは公益社団法人日本山岳会やマスメディアとの協働で、撮影年月日の分かる山岳写真を収集し、データベース(http://mountain-photo.org/)を作成してきた。本研究では、これら過去の写真を活用した植生変化の解析手法を確立することを目的に、過去と現在の写真比較から植生変化の定量化を試みた。

収集された写真のうち、木曽駒ヶ岳の風衝草原と八甲田毛無岱の湿原で38-39年前に撮影された写真を例に紹介する。これらの写真と同じものを撮り直し、新旧の写真画像上で、同一地点と思われる基準点を複数選定した。この基準点をもとに、新写真に過去写真を投影する幾何補正を行い、植生の変化しているピクセルを抽出した。新写真については、カメラのレンズ校正パラメーターおよび数値標高モデルに基づいて正射投影画像を作成し、変化部分の割合を算出した。

地上写真に基づいた植生の定量化が確立できれば、環境の時系列変化の評価において、昔の記録が限られているボトルネックを解消できる。なお新旧写真の重ね合わせにおいて、レンズの歪みの違いや撮影地点のずれに起因する誤差が生じるので、詳細な定量化にはそれらの誤差を極力抑えるような手法の検討が必要であろう。


日本生態学会