| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-243 (Poster presentation)

グローバルヒストリーとグローバリゼーションのなかの生物多様性

須賀 丈(長野県環境保全研)

生物多様性の保全と持続可能な利用にむけて,社会の幅広いひとびとの理解と行動への参加がもとめられている.そのため各地で生物多様性地域戦略の策定などの取り組みがすすめられている。しかしこの問題は,全体像が複雑でわかりにくいとされることがある.たとえば生態学的危機のグローバルな側面とローカルな現実のつながりなどである.

その理解の鍵のひとつとなるのが,世界の生物文化多様性と人間活動のグローバル化との歴史的な関係の把握である.それには近年研究のすすむグローバル・ヒストリーの視点が実り多い基盤をもたらしてくれる.環境の生物地理学的な多様性は人類史の初期条件をもたらした.生物文化多様性はこの多様な環境に適応して生まれ,人間世界の基礎となった.その後,人間活動のグローバル化とともに各地域の社会がたがいにむすびつくようになった.その歴史の大きな転換点は,農耕起源と語族の拡散(数千年前~),諸文明間の交易と疫病の伝播(古代~),新旧両世界の衝突と融合(16世紀~),産業社会化と自由市場経済のグローバル化(19世紀~)などである.20世紀に世界経済が急成長した一方,人間のエコロジカル・フットプリントは地球の環境容量を超えるようになった.

現在の生物多様性の問題は,グローバル・ヒストリーのこの最新局面で浮上したものである.現在の国際貿易は,途上国の生物多様性と世界各国の外来種対策への脅威となっている.日本の里山の歴史と現状もこのような視点から理解できる.近年の里山の利用衰退による荒廃は市場経済のグローバリゼーションの影響によるものである.日本のエコロジカル・フットプリントは海外に大きく依存している.地域社会や里山の伝統知の再生を,このグローバルな危機からの復元力の回復として構想することがもとめられている.未来の世代に選択肢を残すため,世界の生物文化多様性を維持しなければならない.


日本生態学会