| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-253 (Poster presentation)

岩礁潮間帯における植食性巻貝類の多種共存機構:摂餌痕から見る食い分け

*山本智子(鹿児島大・水産),豊西敬(鹿児島大・院・水産)

陸上生態系における重要な植食者である昆虫類は、特定の餌種や部位に特化することによって種分化と多種共存を可能にしているとされている。一方、岩礁潮間帯における主な植食者である軟体動物は、岩礁上を匍匐しつつ口に入る藻類を全て削りとることから、餌種に特化することは難しいと思われる。除去実験の結果は植食性腹足類群集が餌資源に制限されていることを示しており、にもかかわらず同一の岩礁上に近縁の多くの種が共存することから、何らかの共存機構が働いていると考えられる。例えば、歯舌が削り取る被覆性藻類の範囲(深さや形)が種によって異なっていれば、同一岩礁上の藻類を繰り返し利用できるため、複数種の共存が可能である。本研究は、藻食性軟体動物の摂餌痕を採取しその種間差を明らかにすることによって、岩礁潮間帯における多種共存のメカニズムを探ることを目的とした。

摂餌痕の採取には、歯科治療に利用されるデンタルワックスを使用した。デンタルワックスを流し込んだ容器に藻食性軟体動物を個別に入れ、3日程度飼育して摂餌痕を記録した。レーザー顕微鏡を用いて摂餌痕の立体像を撮影し、摂餌の深さや幅を計測して種間で比較を行うとともに、電子顕微鏡を用いて摂餌器官である歯舌を撮影した。

多板綱と腹足綱に属する6科12種の摂餌痕を記録した。多板綱とカサガイ類以外の腹足綱にはそれぞれ明瞭な特徴が見られ、カサガイ類についても、科ごとに歯舌の形態と一致する特徴が見られた。同一科内でも、各部位のサイズを多変量解析にかけることで種間の判別が可能であり、削り取りの範囲は種によって異なっていた。また、摂餌痕の深さや形状から、複数の種間で同一の岩礁を利用できる可能性が示唆された。


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