| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-258 (Poster presentation)

大津波で被災した干潟におけるベントス群集のモニタリングー市民調査法の有効性ー

*鈴木孝男(東北大院・生命科学),西田樹生,勝部達也(東北大・理),占部城太郎(東北大院・生命科学)

東北地方太平洋側の三陸海岸から仙台湾にかけての沿岸地域には、規模はそれほどではないにしても、大小様々な干潟が存在する。これらの干潟は東日本大震災における大津波によって、大小さまざまな被害を被った。撹乱の規模は大きく3段階に分けられ、甚大な撹乱を受けた干潟は干潟環境そのものが無くなってしまったため、本来そこに棲み込んでいた底生動物の多くは消えたままである。中程度の撹乱を受けた干潟では、残された干潟や新たに干潟になったところに、増殖の早いゴカイ類やヨコエビ類が震災直後に多く見られるようになった。一方、ほとんど撹乱を受けなかった干潟では、ベントスの種多様性は高いままで残された。

このように、場所によって被害の程度も異なれば、ベントスの回復過程もさまざまであることが考えられる。そこで、干潟生物のモニタリングを通して干潟の回復過程を追跡し、全体としての健全さを測ることにより、干潟のもつさまざまな機能が充分発揮されるように監視していくことが必要である。

我々は市民参加型の干潟生物調査法(鈴木ら2009、Suzuki & Sasaki 2010)を用いて震災後に三陸海岸から仙台湾にかけての干潟でベントスの調査を行なった。この手法は、8名以上が一組となって干潟生物を探索し、各地点の全出現種数から種多様性を、各生物の発見率から優占種、普通種、少数種を評価するものである。一般市民による目視調査であるため、見逃されやすい生物種があり、種の同定が不確かになることもあるが、専門家の協力を得ることで確実なデータとなりうる。そのため、他地域と比較可能なデータが、多大な時間を要せず、低コストで得られることは、広域的で長期にわたるモニタリング調査には有効である。


日本生態学会