| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-283 (Poster presentation)
湖沼生物群集のキーストーン種であるミジンコ属(Daphnia)は、生息環境の変化に応じて卵鞘でつつまれた休眠卵を生産する。卵が孵化しても卵鞘は湖底堆積物中に長く保存されるため、長期的な観測データがない湖沼でも過去の環境変動と関連した個体群の変化の歴史を解明する手がかりとして利用できる。本研究では東日本の山地(羅臼湖・ニセコ大沼・ミクリガ池)および低地湖沼(阿寒湖・渡島大沼・木崎湖)における過去の個体群の変化を復元し、湖沼環境変遷の解明を試みた。各湖沼で重力式コアサンプラーにより採取した湖底堆積物からミジンコ休眠卵鞘を深度別に抽出した。それらの計数および遺伝的解析を行うことで過去個体群の密度や生息種の変遷を推定し、付近の人間活動の履歴等と照らし合わせ変化を引き起こした要因を推測した。
平地湖沼のうち、阿寒湖と木崎湖は過去は少なかったミジンコが近年急速に増加し、渡島大沼では数十年前に大きく増加した後で減少していた。遺伝的解析から阿寒湖は現在と過去で生息種が異なること、木崎湖は現在2遺伝子型が存在するが過去は一方のみであることも確認された。ミジンコの増加・減少は、その時期に行われた魚類の移入により捕食圧が変化した結果と考えられ、種や遺伝子型の変化も漁業に伴う移入・絶滅を示すものと推測された。一方、山地湖沼ではミジンコの生息種変化は確認されなかったが近年やや増加傾向にあった。過去数十年間の観光開発や観光客の増加と関連した富栄養化が影響していると推測される。過去個体群の復元により、人間の生活圏に近い平地のみでなく山地においても人為的な影響を受けてきたことを示すことができたと考えられる。