| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-284 (Poster presentation)
日本産イシガイ類のうち、流水の冷水環境に生息するカワシンジュガイは、貝礁として視覚的に認識できる局所個体群からなるメタ個体群を形成し、それらは幼生期(グロキジウム幼生)にヤマメの鰓に寄生しての受動分散と稚貝期に水に浮遊しての受動分散で連結していると考えられている。本種のメタ個体群動態を明らかにするためには、ヤマメによる幼生分散に関する理解が不可欠である。
本研究では、北海道朱太川におけるヤマメによるグロキジウム幼生の受動分散プロセスについての知見を得るため、(1)幼生放出期に650mの河川区間において標識した345個体のヤマメの再捕獲による流呈方向の移動距離・方向、および(2)小型定置網によるヤマメの幹河川から小支川への移動個体数を測定した。(1)における1ヶ月後に再捕獲された36個体のヤマメの移動距離は-50m(下流方向)から500m(上流方向)であり、平均27.5mであった。移動距離のヒストグラムの歪度は3.3と大きな正の値を示し、上流方向へ偏った移動が示された。(2)では、任意に選定した4支川の河口に定置網を設置し、それぞれの支川に幹河川から移動してくるヤマメの計数および水温測定を行った。その結果、幹河川に対してより水温の低い小支川へ多くのヤマメが移動する傾向が認められ、グロキジウム幼生は水温の低い支流へ効果的に運ばれていることが示された。これらの結果は、カワシンジュガイの幼生がヤマメに寄生することで、水流による下流への一方向的な分散を補償するとともに、夏の高水温期により高い生存率が期待できる冷たい支流への分散を可能にしていることを示唆している。