| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-287 (Poster presentation)

炭素・窒素・硫黄安定同位体比解析からみた国後島ヒグマの食生態

*中下留美子(森林総研),鈴木彌生子(食総研),小林喬子(農工大・農),伊藤哲治(日大・生資),中村秀次(日大・生資),増田泰(知床財),Andrey Longuntsev(露クリリスキー保護区),大泰司紀之(北大),佐藤喜和(日大・生資)

北方領土である国後・択捉島にはヒグマ(Ursus arctos )が生息しているが、その生態はほとんど知られていない。一方で隣接する知床半島にもたくさんのヒグマが生息しており、その生態研究は盛んに行われている.本研究では、生元素安定同位体比分析による食性解析を行い、知床半島のヒグマと比較することで、国後島のヒグマの食生態を明らかにすることを目的とした。調査は2010年9月11日から18日までの8日間,国後島北東部でヒグマの痕跡調査を行い,樹木等に付着したヒグマの体毛を収集した.これらの体毛はi)異なる個体の体毛を1本ずつ錫箔に封入したもの(個体毎の平均的食性を推定),ii)毛根側から毛先に向かって5mmずつ細断し,その画分毎に錫箔に封入したもの(個体毎の食性履歴を推定)を試料として,炭素・窒素・硫黄安定同位体比を測定した.体毛を1本ずつ分析した結果,国後島のヒグマは窒素・炭素・硫黄同位体比間に強い正の相関がみられ,食物資源のバリエーションが小さいことが示唆された.また,個体毎の食性履歴を推定した結果,どの個体も春の植物食から夏秋はサケマスに移行しており,同様の食性履歴パターンを示した.知床半島のヒグマが植物,サケマス,シカ,農作物を利用することから様々な食性履歴パターンを示すことと比較すると,国後島のヒグマは,人間活動の影響が全くない環境下で豊富なサケマス資源に強く依存して生息していると特徴付けられた.


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