| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-292 (Poster presentation)

定点観察法によるツキノワグマ個体数の長期モニタリング事例~その特徴と課題~

*有本勲,江崎功二郎(白山自然保護センター),野崎英吉(石川県自然環境課)

近年、ツキノワグマ(以下、クマ)の大量出没が全国各地で発生している。クマは、生息密度や繁殖率が低いことから、大量出没に伴う大量捕獲は、クマ個体数の急激な減少を招く危険性がある。しかし、クマの個体数を同じ手法で長期的に調べている自治体は秋田県、石川県などに限られる。そこで本研究では、石川県の1995~2012年の調査結果に基づき、2004、2006、および2010年の大量捕獲がクマ個体数に与えた影響を検証した。

調査は、残雪期にクマを直接カウントする定点観察法によって、1995~97年、2002~03年、2005~07年、2011~12年の4期に分けて実施した。

その結果、2004年の大量出没の際に推定個体数の24%にあたる165頭を捕獲したにも関わらず、第1~4期の推定個体数は、それぞれ562頭、667頭、689頭、812頭と緩やかな増加傾向を示した。この事例から、大量捕獲があっても個体数は必ずしも急減しないことが示された。石川県では、近年、クマの人里への分布拡大による人身被害の増加が深刻な問題となっていることから、今後は、絶滅も増え過ぎも避けた適切な個体数水準に誘導する必要がある。そのためには、定点観察法による推定個体数は過少と考えられたため、生息数そのものではなく、相対的な個体数指数の増減に基づき順応的に管理する方が現実的である。

定点観察法の課題として、低標高域においてはクマ発見率が低かったことや、推定個体数の年変動が大きかったことから、精度の低さがある。そのため、個体数動向判断の誤りを低くするために、赤外線センサーカメラの撮影頻度など、他の独立した手法によるクロスチェックも求められる。


日本生態学会