| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-293 (Poster presentation)
頭骨は摂食器官としての機能を有し,特に歯は食物を切断,粉砕,磨砕するために用いられるため,その形態は動物の採食生態を反映する。ヒグマU. arctosの分布は,ヨーロッパからユーラシア,アジア,北米まで広範囲にわたり,生息環境の違いに応じて食性の変異が大きい。サケ類など動物質を多く利用する個体群がある一方で,ほぼ植物質だけを利用する個体群などがある。こうした違いは,頭骨形態に違いをもたらしている可能性がある。一方ヒグマの地域個体群間にはいくつかの分子系統が認められており,形態の差はこの系統の制約を受けている可能性もある。そこで本研究では,ヒグマの地域個体群間の頭骨形態に変異が見られるのか,さらにその変異は食性の違いによるものなのか,それとも系統的な制約によるものなのかを明らかにすることを目的に,様々な食性と系統をもつ9地域個体群を対象に頭骨形態を計測し,正準判別分析により比較した。その結果,頭骨サイズと臼歯列長に関する変数が大きく寄与していた。分子系統的に見ると特定の傾向は見られず,頭骨形態におよぼす系統的制約の影響は少ないと考えられた。食性との関連では,サケ類を利用する地域では頭骨サイズが大きくなり,臼歯列長が短くなる傾向が,植物質を中心に利用する地域では頭骨サイズが小さくなり,臼歯列長が長くなる傾向が見られた。ただし臼歯列長に関しては,サケ類を利用しないヨーロッパ系の個体群は短くなる傾向にあった。これらの結果から,ヒグマの頭骨形態は,地域個体群間の採食生態の違いを反映している可能性が示唆された。