| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-296 (Poster presentation)

漁獲量を観測データとして用いた状態空間モデルによる琵琶湖の魚類個体群動態の推定

*奥田武弘(国際水研),酒井陽一郎(京大・生態研),近藤倫生(龍谷大・理工)

生物資源管理や多様性保全において,現存量の時間変化は必要不可欠な情報であるにもかかわらず,これらの対象生物は生息密度が低く,野外の生息状況を正確に反映した観測データを得ることは困難であることが多い。野外調査による現存量推定精度を向上させるために調査努力量を大きくした場合,野外調査に必要なコストが大きくなってしまう。少ないコストで資源管理や保全に必要な情報を得る方法として,野外調査以外の大規模データを用いることが有効であるが,情報量が限られている・調査努力量が偏っているなどのデータの不確実性が野外調査データに比べると大きくなる。本研究では,琵琶湖に生息する魚類の現存量の時間変化を推定するために,漁獲量を観測データとみなして,データの不確実性を明示的に考慮した状態空間モデルによる個体群動態パラメータの推定を行った。

モデルを単純化するために,魚類の現存量に対する漁獲割合は全期間を通して一定であると仮定して,(1)観測(漁獲)に伴う誤差を考慮した観測モデル,(2)現存量の時系列変化とそれに影響するプロセス(個体群増加率)を推定するプロセスモデルの2つのモデルから構成される一般化状態空間モデルを作成した。MCMC法によるパラメータ推定の結果,個体群増加率の種間の違いが示されたものの,各種の個体群増加率は明瞭な時間変化を示さなかった。そのため,各魚種の現存量の時間変化は,プロセス誤差によって生じており,実際の個体群動態を的確に表現できていない可能性が示唆された。より現実的な統計モデリングを行うためには,漁法別漁獲量や漁獲努力量を組込むことで,漁獲割合の時間変化も推定することができるモデルへと発展させる必要があるだろう。


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