| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-313 (Poster presentation)

静岡県におけるGPS首輪を用いたニホンジカ行動特性の解明-伊豆半島・富士山・南アルプスでの違い-

*大場孝裕,大橋正孝,大竹正剛,山田晋也(静岡県・森林研セ)

行動特性を踏まえた捕獲の効率化と,調査研究の適確な推進に資することを目的に,静岡県の各地域において,麻酔銃を使って生体捕獲(南アルプス聖平のみくくりわなを併用)したニホンジカに,GPS首輪(Followit社製Tellus)を装着して調査を行っている.伊豆半島では,2008年11月から2010年3月までの間に,メス17頭を追跡した.富士山では,2010年11月から2012年6月までの間に,メス7頭,オス4頭を追跡した.南アルプス聖平及び千枚周辺では,2010年10月からメス5頭,オス6頭を追跡中である.

伊豆半島で,冬季を含む8ヶ月以上追跡できたメス10頭の,カーネル法による95%行動圏は54.4±33.6ha,集中的に利用していたと見なせる50%行動圏は8.2±4.7haと小さく,明確な季節移動はなかった.

富士山で,1年間以上追跡できたメス4頭の95%行動圏は145.9±47.9ha, 50%行動圏は23.6±10.0haと,伊豆半島のメスの約3倍の広さがあった.また,行動範囲を大きく変える季節移動が確認できた.行動圏内の標高差は平均1,200mで,標高差が1,985mあった個体は,標高730mの牧草地から高山帯までを利用していた.

聖平(標高2,300m)で生体捕獲したメス3頭は,11月まで聖平に滞在し,冬季は南アルプス深南部と呼ばれる南側へ移動し,6月に再び聖平に戻ってきた.既得の位置データのうち,最も離れた2点の距離は17.5±3.7kmに達した.この移動は,富士山の11.0±2.4km,伊豆半島の5.6±3.1kmと比べて長かった.

伊豆半島には存在しない,比較的冷涼な高山・亜高山帯の高茎草原や火山荒原が,植物の生育期にニホンジカが採食場所として好む環境で,季節移動する理由であることが伺えた.


日本生態学会