| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-392 (Poster presentation)

放牧草地の生物多様性が有する畜産的生態系サービス

吉原佑(東北大・農)

生物多様性は生態的、文化的サービスの根幹をなすものであり、その重要性は世界の共通認識となっている。わが国では近年特に農業生態系における生物多様性の保全の重要性が認識されている。その一方で、草地や牧場においては生物多様性保全の場としての認識が希薄である。その要因の一つとして、草地が生産の現場として重要であり、農家によって生物多様性のメリットが理解されていないことがある。したがって、生物の多様性が家畜生産性の向上につながることを示す必要がある。

ミネラルは五大栄養素の一つであり、体内の恒常性維持に働くことを通じて家畜の生産性に影響を与える。ミネラルは要求量を満たす必要があるだけでなく、中毒限界量以内に抑える必要がある。ミネラルは種内・種間で変動が大きいことから、摂取する種が乏しい場合、ミネラルバランスが崩れる可能性がある。そこで、 放牧草地に多様な植物種が存在することで 、ウシのミネラルバランスを維持することができるという仮説を立て、これを検証した。

草地内の植物種数が異なる場合のミネラルの摂取量を、シミュレーションにより推定した。種の組み合わせを種数ごとに1000通り想定し、各ミネラルの摂取量を推定した。すべての種を同一量摂取したと仮定したシミュレーションと、ウシの選択性を加味し、摂取量が種によって異なるシミュレーションの両方を行った。シミュレーションに供した種は、草地性の牧野草を中心に、森林性の野草や灌木も加えた17種類である。シミュレーションに供したミネラルは、ウシに必要な主要無機物と微量要素12種類とした。

シミュレーションの結果、植物種が足りなかった場合、P、Na、Fe、Cuは不足する可能性があり、Mg、K、Mnは過剰摂取する可能性がある。ミネラル全体を平均した結果、摂取する種が増加すると正常範囲内のミネラルを摂取することのできる可能性が平均で約17%増加することを示した。


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