| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-394 (Poster presentation)

降水量と放牧の違いがモンゴルの牧畜業-牧草地生態系の持続性に与える影響

*加藤聡史,藤田昇,山村則男

乾燥地の草原植生は降雨等の気象変動の影響を受けて時間的にも空間的にも大きく変動するので、一次生産の分布の予測が立てにくい。こうした地域では定住的な農業を行うのはリスクが高く、広域の草地を機会的に利用する遊牧が伝統的に行われてきたと考えられている。しかしモンゴルでは、近年の民主化にともなう市場経済化・市場にちかい都市周辺部での家畜頭数の急激な増加と集中化・現在議論中の新たな牧地法による将来的な定住的牧畜へ移行する可能性などによる植生環境の劣化が懸念されている。

本研究では、どのようなシステムが牧草地全体での牧畜業の生産性や牧畜民の利得を最大化できるか?さらに、草原生態系を長期間持続的に維持できるための牧畜業の規模はどのようなレベルか?という環境と経済の両方の要因に着目し、シミュレーションモデルを用いて、異なる牧畜様式(遊牧/定住)、異なる降水量と降雨パターン、異なる放牧圧に対して、それぞれの条件下での牧畜業の持続可能性の予測と比較を行った。このモデルでは、モンゴルでの牧畜に関して収集したさまざまなデータを初期値として利用した。

その結果、牧草地生態系の牧養力(環境収容力)は、従来いわれてきた降雨量とあわせて、牧畜の移動性でほぼ決定される可能性があること、牧民世帯数は牧養力には影響しないが草地環境の劣化には大きく関係すること、などを明らかにした。また、牧畜民が自分の利得を最大化しようとふるまうような場合でも、植生バイオマスが大きく回復力の高い箇所を利用することで、生態系利用の持続性はむしろ高くなる場合がある一方で、移動性が低下すると脆弱な箇所へのダメージがより蓄積されやすくなることを示した。


日本生態学会