| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-405 (Poster presentation)

縞枯れ林におけるシカ食害の現状とその10年間の変化

*鈴木智之(信大・山岳総研),竹田謙一,小林元(信大・農)

「縞枯れ林」は世界でも限られた場所のみで見られる景観である。長野県北八ヶ岳縞枯山の縞枯れ林では、近年、シカによると思われる樹皮剥ぎや稚樹の枝葉食害が数多く見られるようになってきた。本来、風による枯死と樹木の更新の微妙なバランスによって維持されている縞枯れ現象であるが、樹皮剥ぎによる成木の死亡率の増加や稚樹の食害による更新阻害が起きればこのバランスが崩れ、将来的に縞枯れが維持されなくなる可能性がある。そこで、本研究は、縞枯れ林における近年のシカの分布や食害の現状およびその変化を明らかにすることを目的とする。

2002年に、林野庁南信森林管理署によって縞枯山南西斜面の530mトランゼクトに沿って10mおきに毎木調査が行われた。この際、当時増加し始めていたシカによる樹皮剥ぎの有無が記録されている。本研究では、2012年にこのトランゼクトに沿って毎木調査および樹皮剥ぎの有無、枝葉食害、シカ糞塊数を調査した。

2002年は、斜面下部で1-2割程度の樹皮剥ぎ率(全幹数の内の樹皮剥ぎのあった幹の割合)で、斜面上部に行くほど樹皮剥ぎ率は下がり、下部より500-530mの区間では樹皮剥ぎは見られなかった。一方、2012年は、斜面下部で5-6割程度の樹皮剥ぎ率で、斜面上部に行くほど樹皮剥ぎ率は下がるものの、500-530mの区間で2割程度の樹皮剥ぎが見られた。糞塊数は、斜面下部で2×100mあたり20-30塊程度であったが、斜面上部で10塊程度であった。稚樹の枝葉食害は全体として、頻度は少なかったが、場所によっては大半の稚樹に枝葉食害が見られる場所もあった。

明らかに10年前よりもシカによる食害が増加しており、今後、これが縞枯れ更新に与える影響を評価する必要がある。


日本生態学会