| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-411 (Poster presentation)

霧多布湿原におけるエゾシカの行動と植生に対する影響

*志田祐一郎(北大院・農,(株)野生生物総合研究所),石井健太,芹澤裕二,白井哲也,石田裕一,安細元啓((株)野生生物総合研究所),河原淳(NPO法人えんの森),金田哲也(浜中町)

北海道東部浜中町の霧多布湿原では、近年、町の花であり観光資源でもあるエゾカンゾウの花が少なくなってきており、この原因がエゾシカの採食ではないかと疑われていた。浜中町はこれをきっかけとして、湿原に対するエゾシカの影響を把握して必要な対策を検討するために、2010~2012年に調査を実施した。

霧多布湿原の南東部に、大きさ12m×12m・高さ2mの防鹿柵を2010年6月に3個設置した。それぞれの場所に調査区(囲い区と対照区)を設け、植物の種組成とエゾシカによる採食状況を調べた。また空中写真および現地踏査による痕跡の確認、赤外線カメラによる無人撮影、ライトセンサス、定点観察によって、調査区周辺に生息しているエゾシカの数と行動を把握した。

エゾシカの食痕はエゾカンゾウ、タチギボウシ、ノハナショウブ、ノリウツギで顕著だった。エゾカンゾウでは主に花が採食され、採食された花茎の本数割合は調査区あたり最大で約90%であった。しかし2010年から2012年にかけての種組成の変化は顕著ではなかった。

夏季のエゾシカは、夜は調査区付近で、朝夕は内陸側の湿原で多く確認された。すなわち昼は内陸側の湿原や森林にいて、夜に調査区付近に移動してくると推察された。夏季のライトセンサスにより調査区付近で確認されたエゾシカは1晩あたり最大で30頭であり、これらが調査区付近の植物を採食していると考えられた。

以上の結果を踏まえて、採食に関与する個体の排除や、電気柵を使用しての防除など、とるべき対策について現在協議している。


日本生態学会