| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


シンポジウム S06-2 (Lecture in Symposium/Workshop)

気候変動下の土壌炭素モデルのあるべき姿-- ここに気づけばもっと良くなる

伊勢武史(兵庫県立大)

「地球温暖化対策は待ったなし」などと言われるが、そもそも将来の地球の温度が、いつ・どの程度変化するかが分からなければ、有効な対策は立てられない。そこで用いられるのが気候のシミュレーションモデルであり、そのなかで生態系の物質循環は重要なプロセスとして位置づけられている。森林や土壌の変化や人為的な土地利用などは将来の温室効果ガス濃度を通して気候に影響を与え、ひるがえって気候の変動は生態系に影響を与えるというフィードバックが存在するためである。しかし現状では、炭素循環モデル中の土壌有機炭素のダイナミクスは十分に表現されているとはいえない。大気中に存在する炭素量のおよそ2倍が土壌中に蓄積され、特にその多くの部分は永久凍土の崩壊などの激変が予測される北極高緯度圏に存在していることを考えると、土壌炭素の挙動のモデル化は気候変動予測の高精度化に非常に重要である。

そこで本講演では、気候変動の研究者の立場から、(1)土壌炭素をモデル化する意義、(2)将来予測に有用なモデルに求められていること、そして(3)明示的に扱うことでモデルが「もっと良くなる」プロセスについて扱う。土壌炭素をモデル化する意義のひとつは、生態系のメカニズムを定量的に再現することで将来の変化を予測することにある。そのようなモデルに求められるのは、気候変動に強い影響を及ぼすプロセスを的確に再現することである。その一例として、大量の土壌炭素が蓄積されている亜寒帯における永久凍土・土壌炭素・気候変動の三者が関わるダイナミクスを再現する試みを紹介する。

さらに、フィードバックの概念を明確に示すことにも重点を置く。たとえば、単に「土壌」といってもその内部には泥炭の蓄積と永久凍土の形成などのフィードバックが潜んでいるのだから、このような複雑なフィードバックの「入れ子構造」を解説し、地球システム内で土壌生態系の果たしている役割を認識する。


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