| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
シンポジウム S12-1 (Lecture in Symposium/Workshop)
生物の繁殖には遺伝的に同一な個体を生産するクローナル繁殖と、組換え等を伴い新たな遺伝的組成の個体を作り出す繁殖様式がある。これらの繁殖様式の長所は菌類の増殖に端的にあらわれる。つまり、生息環境が好適であれば、クローナル増殖により旺盛な繁殖をおこない、不適とあれば有性繁殖によって多様な遺伝組成を持つ次世代個体をつくり、場合によっては胞子による長距離分散をする。種子植物の一部が獲得したクローナル繁殖についても好適環境の空間的な広がりがアドバンテージを生む。社会性を持つアリのコロニー形成においても、周辺環境の資源が潤沢であれば、新女王が一から新たにコロニーを作るよりも分峰のほうがコロニー形成の確率は高いだろう。これらに共通するポイントは、それぞれの生物および生物集団が固着性であるという点だ。周辺環境がおおよそ同じ環境であればクローナル繁殖によって安定して次世代を生産することができる。
他方で、これらの繁殖様式をもつことは分散戦略の問題として捉えられ、理論的な解析がなされてきた。個体あるいは生物集団への直接的な撹乱を考慮した場合、クローン繁殖よりも長距離分散によって撹乱の影響を免れる戦略が選択される場合がある。しかし長距離分散によって定着した移住先が生息に適しているかどうかは問題とされてこなかった。そこで生息環境の異質性を考慮にいれ、生息環境に対して選択圧がかかる場合のシミュレーションを行い、クローナル繁殖を有利に選択させる要素を検証した。種子植物のいくつかを例にとり、シミュレーション結果の妥当性を議論する。また、本講演で挙げられる他の生物、コロニー、細胞(ガン)集団についての生活史特性をふまえ、クローナル繁殖をおこなう生物の共通性についての議論の土台を提示する。