| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


シンポジウム S12-5 (Lecture in Symposium/Workshop)

目にみえない菌類のクローナルな生き方:主に病原菌を材料とした分子生態学的研究に関する話題

広瀬大(日本大)

菌類は菌糸体もしくは酵母として生活する微生物である。いずれの生活型においても、恐らく菌類の殆どの種はクローン増殖する能力を有する。例えば子嚢菌類の多くの種では、有性生殖と共に無性繁殖が発達しており、菌糸体による栄養成長に加え分生子とよばれる無性胞子を分散させることにより分布を拡大させている。いわゆるキノコを形成する担子菌類においても、菌糸体は無性的に増殖することが可能である。

微小であり観察できる表現型が少ないことに加え、単相と重相の世代を持つ種が存在することなどから、菌類は個体性の判断や連続性の把握が難しい生物である。そのため、交配型因子や体細胞不和合性、病原性、薬剤耐性などの生理学的マーカーや、近年では核酸をターゲットにした分子マーカーをツールとすることにより、個々の種の生活史や繁殖戦略の解明を目指した個体群レベルの研究が行われてきた。特に分子マーカーは、高解像度で遺伝子型を決定出来るだけでなく、基質中から分離培養することの出来ない菌種においても菌糸の検出を可能としたため、近年よく用いられている。

本講演では、まず菌類の生活様式、特に生活環、性、繁殖様式、栄養獲得様式、基質の特異性などを簡単に説明する。次に、研究例が多い主に病原菌におけるクローナルな生き方の実態解明を目指した分子生態学的研究を紹介したい。


日本生態学会