| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


企画集会 T05-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

連続空間上の個体ベース個体群動態

高須夫悟(奈良女子大学・理)

個体群動態の理解は、単に学術的な興味のみにとどまらず、病害虫の防除、感染症対策、生物資源の持続的利用と保全といった、実用的な諸問題への応用が期待できる古くて新しい問題である。個体群は生物個体の集まりであるから、その動態、すなわち個体数の時間変化は、各個体がどのように子供を産み、どのように死んでゆくかが決まれば原理的には個体ベースの過程として再構成できる。多くの場合、個体群はよく混ざった集団ではなく、空間上の様々な分布様式(集中、過分散)を示す。自らの分布様式が自らの動態の行方を大きく左右することは、空間生態学が広く認知されるようになった昨今では周知の事実である。

空間構造を持つ個体群動態の数理的研究には様々なアプローチがある。本講演では、連続空間上の個体群動態に注目する。連続空間上の個体群動態は、各個体が近隣個体との距離に依存する相互作用を経て、出生と死亡を繰り返すモデルとして再現できるが、これは、数理的には一定のルールに基づき点が点を生成して消滅する点過程と見なすことができる。個体分布としての点パターンの記述は、点の密度(1次空間構造としての個体密度)に加え、2つの点から構成されるペアの密度(2次空間構造としての2個体間距離の関数であるペア相関関数)など、が用いられる。点パターンの動態を個体密度とペア密度の連立動態として表現する数理的アプローチは近年熱い注目を集めている。

本講演では、いわゆるロジスティックモデルを連続空間上の点過程として再現した先行研究を例にとり、点パターン動態を数理的に取り扱う手法について解説する。点パターンの定量化とその統計量の動態が鍵を握る。空間個体群動態の研究において先行する離散空間上の個体群動態(いわゆる格子モデル)との類似点や、そもそも点パターンの定量化とは何であるのかという、空間分布の認識に係る根本的な問題についても触れる予定である。


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