| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨 ESJ60 Abstract |
企画集会 T09-2 (Lecture in Symposium/Workshop)
鳥は巣を造ることによって環境を改変し,その構築物である巣は他の生物に新たなニッチを提供している(生態系エンジニア)。鳥の巣を多くの動物が繁殖場所,蛹化場所および越冬場所として利用している。たとえば鱗翅目昆虫は現在までに9科16種の鳥の巣から5科27種が記録されている.市街地の鳥の巣にはケラチン食性の強いイガとコイガなどのヒロズコガ科と穀類食のカシノシマメイガとコメノシマメイガなどのメイガ科が主に発生する.これらは衣類や食品の害虫でもある.里山と森林では,巣内にケラチンと枯れ草があれば,ケラチン食性のマエモンクロヒロズコガ,フタモンヒロズコガなどのヒロズコガ科とマルモンヤマメイガといったメイガ科,マルハキバガ科やミツボシキバガ科などの枯葉食性の蛾が発生する.一方,昆虫食性で巣内に枯れ草がないアオバズクやブッポウソウの巣ではヒロズコガ科の中でもキチン食性の強いウスグロイガとクロスジイガが発生する.このように鳥の巣の鱗翅類相の違いは,巣が市街地にあるかないか,そして鳥の食性と鱗翅類が利用できる餌資源(巣材や堆積物)の違いに関係している.とくにフクロウ類はヒロズコガ科に豊富な餌と住処を提供し,鱗翅類は巣内を清掃し毎年の巣利用を助けていると推測された.コウノトリの巣は大量の枯れ枝と土からなる特異なものであるが,羽毛,ヒナの羽鞘屑,食べ残し,ペリットや糞などの動物質が豊富に集積している.この巣アカマダラハナムグリ,シラホシハナムグリなどの腐肉食者と,草の根土ごと受動的に運ばれてきたナメクジ類,ミミズ類,ワラジムシ科のワラジムシやマルムネハサミムシ科のヒゲジロハサミムシなどの腐食者や捕食者が巣内に共生し,腐食連鎖を形成していることが判明した.このように鳥は巣場所を多くの動物に新しいニッチとして提供し、相利的共生関係を含め、複雑な色もと連鎖のネットワークを京成している。