| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


企画集会 T09-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

リーフシェルターをめぐる生物間の相互作用:場所資源は余っているのか?

福井晶子(日本野鳥の会)

リーフシェルターとは,鱗翅目幼虫やハダニの幼虫が糸をつづって作るリーフロールやアブラムシがつくるゴールなどのことである.リーフシェルターは,それをつくった生物だけでなく,同種の異個体をはじめ,自らはシェルターをつくる能力のない生物,たとえばカメムシ,ハサミムシ,チャタテムシや陸生貝類などにも利用される.これまで研究報告ではシェルターの再利用率はどれも 60%以上である.

多様な生物がリーフシェルターを再利用するので,リーフシェルターがあると寄主植物上の種多様性や個体数が増加する傾向がみられる.リーフシェルターを利用する生物間の関係は,主に空間資源を介した間接的で共生的な関係と考えられる.さらに,成虫による産卵場所の選択および幼虫によるシェルターを作る葉の選択が,リーフシェルターの非一様分布を促す.リーフシェルターの提供は,空間資源の不均一化をもたらすため多種共存メカニズムの1つといえるだろう.これらのことから,リーフシェルターを作る生物は Allogenic ecosystem engineerとして他生物の空間資源の利用に影響を与え,寄主植物上にニッチを構築していると考えられる.

ではなぜシェルターは再利用されるのか?その理由はいくつか考えられる.まず,リーフシェルターを利用する生物は,乾燥,日射,捕食,寄主植物の被食防御といった死亡要因を軽減でき,しかもこれらの利益は多様な生物に共通なこと.次に,既存のシェルターの再利用は構造物を加工するコストが省けること.また,空間資源(物理構造)は,食物資源と異なり,劣化しにくい再利用可能な資源であること.さらに,構造物の加工に適した場所の不足が考えられた.これらの点について既存研究を紹介しつつ,議論を深めたい.


日本生態学会