| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(口頭発表) B1-15 (Oral presentation)

石川県における希少植物オキナグサの現状

*野上達也,吉本敦子(白山自然保護センター)

石川県に生育するオキナグサ(Pulsatilla cernua)は、石川県での生育地は、わずか1か所のみで、2006年には「ふるさと石川の環境を守り育てる条例」で県指定希少野生動植物種の一つにも指定されている。また、石川県レッドデータブック(2010)では、絶滅危惧Ⅰ類としても記載されている。2010年から2013年にかけて自生地集団の開花結実調査および栽培個体による交配実験を行い、種子繁殖に関する基礎的データを記録した。その結果、個体数に大きな変動はなかったが、花数は減少していた。花数の減少は、地上部流出による個体サイズの縮小によるものと考えられた。地上部流出は2011年及び2013年にあったが、地下部(根茎と根を含む)が残り個体は維持されていた。一般にオキナグサの自生地の多くは火入れや採草等人為的干渉の下で維持されてきた日当たりのよい二次草原とされているが、石川県に残存する集団は河川敷の岩場に生育しており、大雨による増水で生育する植物が流されやすく、ススキ等のオキナグサを被陰する植物が生育しにくい環境である。本個体群のオキナグサは他の植物と異なり、地下部が岩の割れ目に食い込んでいるため、増水により一旦地上部が流されても地上部が再生することが多く、他の植物が生存しにくい環境でも生存を続けることができていると考えられる。石川県に生育するオキナグサは、同様の自然発生的撹乱が数年に一度起こることで、他の植物との生存競争を回避し、集団を維持しながら、現在に至ったとと推測できる。しかしながら個体群が局限されているという状況にも関わらず、2009年、2010年、2012年には繁殖個体の盗掘が確認されており、自生地における個体群の維持がますます困難になりつつある。絶滅を回避するためには、人間の手による盗掘をなくすことが急務である。


日本生態学会