| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(口頭発表) C1-13 (Oral presentation)

ツキノワグマ生息地選択はスケールによって異なるか?

*高畠千尋,瀧井暁子,日吉晶子,細川勇記,泉山茂之(信州大・農)

野生動物の生息地選択を理解する際に、スケールが重要であることが分かってきている。特に動物が自らの行動圏を形成する第二次スケールと、その行動圏内で採食や休息などのために必要な場所を選択する第三次スケールから見た生息地選択決定要因を知ることは、適正な生息地管理・保全のために重要である。

本研究では、中央アルプス北部地域に生息するツキノワグマUrsus thibetanusのメス14頭にGPS首輪を装着後追跡し、2008−13年の間に得られた測位データをもとに、クマによる生息地選択が季節・地域・スケールによってどのように異なるかを検証した。実際クマにより利用された「利用」サンプルと比較するための「利用可能」サンプルの無作為抽出範囲を、スケール・季節・地域ごとに変え、混合効果ロジスティック回帰の単変数解析の手順で変数を選択した後、3つのサンプリング・デザインをもとにそれぞれ資源選択関数モデルを構築した。

その結果、第二次と第三次スケールの間で大きな選択の違いが認められたのは、林縁・農地・地表起伏度であった。例えば林縁の選択においては、行動圏形成時には林縁が負の要因になる一方、行動圏内では林縁は強い正の選択要因となっていた。季節と地域間において大きな違いがあったのは、河川からの距離に対するクマの選択であった。スケール・地域・季節の違いがあるにも関わらず一貫して選択されていたのは落葉広葉樹で、ツキノワグマにとってこの植生が個体ごとの生存及び地域個体群存続にとっていかに重要かを、定量的に示すことができた。

以上の結果から、野生動物の生息地選択モデルを実際の保全管理の施策に活用するためには、地域・季節の違いのみならず、どのようなスケールで計画を立てるかを、十分考慮する必要がある事が判明した。


日本生態学会