| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(口頭発表) C2-06 (Oral presentation)

糞採集放棄50年経過後のカワウ営巣地の植生遷移

*前迫ゆり(大阪産大大学院・人間環境),亀田佳代子(琵琶湖博物館)

はじめに 知多半島南部に位置する愛知県鵜の山はカワウ営巣地として天然記念物に指定されている。江戸期(1830年代)より昭和中期(1960年代)までカワウの糞採集が行われてきたが(藤井 2010ほか)、その間、上野間地区の人々は営巣地を維持するためにクロマツや低木植栽などを行い、その周辺域は薪炭林として森林利用をしてきた。1940年代から1990年代までの空中写真解析から、カワウ営巣地の経年変化と相観の変化について2010年度大会で報告した(亀田ほか 2010)。本研究では森林構造と種組成を調査し、カワウの営巣および人々の生物資源管理による森林遷移と植生構造への影響を明らかにすることを目的としている。

調査地および調査方法 かつてカワウが営巣していたエリアを含む約12haを対象に、幹周80cm以上の樹木の位置情報(GPS)とDBHを測定するとともに、27調査区で植物社会学的調査を行った。それらを基に営巣域の経年変化と主要樹木の分布図との関係を示すGIS図を作成した。また林分構造およびDCAによる種組成解析を行った。

結果および考察 幹周80cm(DBH>25.5cm)以上の樹木はエノキ(115本)がもっとも多く、ついでコナラ、タブノキ、クスノキなどであった。現在のカワウ営巣域にはヨウシュヤマゴボウが繁茂し、アカメガシワ、エノキなどの落葉広葉樹が優占しているが、かつての営巣域はタブノキが優占し(個体数比率84.2%)、ついでクロガネモチ(73.9%)、エノキ(70.4%)、クスノキ(50.0%)などが群落を形成していた。かつて植栽されたクロマツのほとんどは枯死しているものの、カワウ営巣地における人々の生物資源管理が、現在の多様な森林群落の成立に寄与していると考えられた。


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