| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(口頭発表) D1-01 (Oral presentation)

岡山県笠岡市におけるカブトガニの越冬行動

*渡辺伸一・小山田早織(福山大・生命工)・森信敏・惣路紀通(カブトガニ博物館)

かつて岡山県笠岡市は、カブトガニの代表的な生息地だったが、環境悪化により生息数が激減したため、生息地の保全が急務となっている。カブトガニの生息地保全のためには、生活史を通じた利用場所の把握が課題となるが、成体の行動については、産卵地周辺を除いてほとんど情報がない。本研究では、バイオロギングによって長期的にカブトガニの行動を調査し、繁殖期以降、越冬期にかけての行動と利用場所を推定した。カブトガニの活動期である6月から10月に温度・深度ロガーを装着して繁殖地である笠岡湾内で放流し、周辺の漁業活動で混獲された個体からロガーを回収した。ロガーを装着した20個体のうち、4個体(雄3、雌1個体)を再捕獲して、越冬期を含む169-286日間(計906日間)の行動データを得ることができた。深度変化のパターンから、活動時の行動を分析した結果、カブトガニの行動は日周サイクルと潮汐サイクルに同調した周期性を示した。その後、10月下旬(水温21℃)に雄3個体は活動を停止したが、雌は11月下旬(水温18℃)まで活動した。休止中に記録された深度データから水深と干潮時刻を推定して、笠岡周辺の海底地形と推算潮時と比較した結果、越冬海域は湾口から西側の海域(水深4-10m)であることが明らかになった。越冬中に2個体(雄1、雌1)は底引き網漁で捕獲され、ほかの雄2個体は越冬後に湾外の定置網で雌とつがった状態で捕獲された。越冬した雄2個体は5月中旬(16℃)に再び活動し、水深10-30mに達する広範囲を移動し、産卵期の7月中に5m以浅の浅瀬を度々訪れた。越冬期間はそれぞれ195日、200日間に及び、一年の約55%に相当した。以上の結果から、笠岡湾周辺の浅海域がカブトガニにとって越冬場所と越冬後の採餌場所として重要であり、湾外の環境も含めた生息地保全の対策を講じる必要があると考えられる。


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