| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(口頭発表) E1-09 (Oral presentation)

太平洋側の針広混交林に生育するモミ(Abies firma)体内における放射性セシウムの挙動

*大庭ゆりか(広島大・総),静間清(広島大・工),山田俊弘(広島大・総),奥田敏統(広島大・総)

東京電力福島第一原子力発電所事故発生から約3年が経過するも、発電所から北西方向に位置する森林には、現在も大量の放射性物質が存在する。特に放出量の多かった半減期約30年のセシウム-137の森林生態系物質循環内における分布・挙動の把握は、森林の除染対策を検討するうえで急務である。本研究では、福島県内森林の主構成種であるモミ(Abies firma)樹体内における放射性物質分布の解明を目的として、生枝および調査対象個体周辺の落葉・落枝と土壌を採取し、それらに含まれる放射性セシウム濃度を測定した。

調査は、2013年7月31日~8月5日に福島県太平洋沿岸地域北西部(飯舘村、相馬市、南相馬市)に広がる針広混交林内で実施した。採取した生枝の一部は、放射能分布を調べるためにイメージングプレートを24時間露光させ、イメージングアナライザーを用いて放射能分布画像を得た。残りの枝は節ごとに当年枝(2013年)、1年枝、2年枝に分け、90度で24時間乾燥させて粉砕した後、ゲルマニウム半導体検出器を用いて放射性セシウム濃度を測定した。

得られた枝の放射能分布画像では、1年枝・2年枝に比べ、当年枝において顕著に高い放射能濃度が確認された。ゲルマニウム半導体検出器の測定結果からも、1年枝・2年枝と比べ、当年枝で約2~4倍高濃度の放射性セシウムが検出された。統計解析の結果、当年枝の放射性セシウム濃度は1年枝・2年枝よりも有意に高かった(Friedman検定、p<0.001、df=1、n=19)。しかし、1年枝と2年枝の間では放射性セシウム濃度に有意な差はなかった。

本研究の結果より、当年枝における著しい放射性セシウムの蓄積が確認されたことから、モミ樹体内における当年枝への放射性セシウム再転流の可能性が示唆された。


日本生態学会