| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(口頭発表) E1-12 (Oral presentation)

トゲオオハリアリにおけるワーカーの脳内アミン濃度と女王接触頻度の関係

*下地 博之 (北大・地球環境), 青沼 仁志 (北大・電子研), 岡田 泰和 (東大・総合文化), 三浦 徹 (北大・地球環境), 辻 和希 (琉大・農)

真社会性昆虫は個体間相互作用によって複雑な社会を形成している。真社会性昆虫に見られる特筆すべき特徴は女王とワーカーとの間で行われる繁殖分業である。女王シグナルはワーカーの不妊化に関わる主要な鍵刺激として、その物質や伝達方法が研究されてきた。現在では、女王シグナルがワーカーの生理状態へどう作用するのか調べるために、ワーカーの応答を制御する因子として幼若ホルモン(JH)や生体アミン類の動態が注目されている。日本産トゲオオハリアリ(Diacamma sp. from Japan)は、形態学的な女王カーストを失っており、一匹の交尾したワーカー(gamergateと呼ばれる)と不可逆的に交尾能力を失った労働ワーカーによってコロニーが構成されている。先行研究によって、本種では女王シグナルの伝達がgameragteとワーカーとの直接接触によって行われており、大きいコロニーやgamergate不在のコロニーではワーカー間で繁殖を巡る儀式的な闘争行動である順位行動の頻度が増加する事が知られている。他種を用いた研究で順位と脳内アミン類の間に相関関係が示されているが、このような個体間の異質性がどのように生じるのかについてはあまり明らかにされていない。本研究では、ワーカー間の異質性が生じる生理基盤を明らかにするために、女王シグナルから解放されたワーカーの脳内アミン類の動態をHPLCを用いて調べた。この結果、女王シグナルとの隔離後3時間の観察によって、ドーパミンの濃度が上昇し、且つ分散が大きくなる事が示された。これは女王シグナルがわずかな時間しかワーカーの生理状態を支配できない事を示唆する。最後に本種におけるこのような制御因子が社会構造の変化へどのように影響するのか議論する。


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