| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(口頭発表) F2-05 (Oral presentation)

シカ樹皮剥ぎが創出する葉形質の空間的異質性がヤナギ上の昆虫群集に与える影響

*田中幹展(北大・環境科学院),中村誠宏(北大・中川研究林)

近年、シカなどの大型草食獣による食害は、植物の被食応答を介して、その植物を利用する節足動物の群集構造に影響を与えることが明らかになってきた。しかし、これまでの研究において、被食応答によって生じる植物形質の変化の空間的な異質性が、節足動物の群集構造に与える影響について注目したものは少ない。本研究ではこの点に注目し、シカ(Cervus nippon yesoensis)による樹皮剥ぎが、ヤナギ(Salix spp.)の葉の形質と、葉を利用する節足動物の群集構造に与える影響を調べた。北海道北部のヤナギ河畔林において、人工剥皮を用いた野外実験を行った。人工剥皮は、自然のシカ樹皮剥ぎが発生する時期に合わせて、積雪期に実施した。樹皮剥ぎ後1年目の夏期に、葉の化学形質、およびヤナギ上に出現する節足動物の種数と個体数を調べた。樹皮剥ぎによる葉形質の変化の空間的な異質性を明らかにするため、ヤナギの葉を樹皮剥ぎ上部と下部に分けて調べた。樹皮剥ぎ下部において、人工剥皮を行ったヤナギは萌芽枝を生産することが明らかになった。この樹皮剥ぎ後に生じた萌芽枝の葉は、人工剥皮を行っていないヤナギの樹冠の葉に比べ、フェノールなどの防御物質の含有率が低いことが明らかになった。一方、樹皮剥ぎ上部において、人工剥皮を行ったヤナギの樹冠の葉は、行っていないヤナギに比べ、フェノールの含有率が高いという、樹皮剥ぎ下部の葉とは全く逆の形質変化を示した。樹皮剥ぎがヤナギ上の節足動物の出現種数に与える影響を調べた結果、人工剥皮を行ったヤナギでは、行っていないヤナギに比べて、節足動物の出現種数が多くなることが明らかになった。これらの結果から、シカによる樹皮剥ぎは、ヤナギの樹皮剥ぎ上部と下部における葉形質のモザイクを創り出すことで、ヤナギ上の節足動物の多様性を高めることが示唆された。


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