| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-007 (Poster presentation)

火山噴火は植生遷移を促進するか? -2011年新燃岳噴火の事例より-

*安部哲人(森林総研・九州),山川博美(森林総研・九州),重永英年(森林総研・九州),野宮治人(森林総研・九州),金谷整一(森林総研・九州),荒木眞岳(森林総研・九州),香山雅純(国際農研セ)

霧島山系新燃岳は2011年1月に噴火し,火口南東側を中心に大量の火山灰が堆積した.この噴火による森林被害とその後の回復過程を明らかにするため,火口から南東3km前後のアカマツ林で50m四方のプロットを5ヶ所設置し,噴火後の2011年9月以降3年間,毎木調査と林床の実生調査を行った.毎木調査の結果,噴火で葉が全て落ちた個体はほとんど枯死しており,特に火口から3km以内のプロットでは優占樹種アカマツの被害が非常に大きいことが分かった.これは今回の噴火が冬期であったため,噴火時に着葉していたアカマツだけ被害が集中し,多くの落葉広葉樹は生き残ったと考えられる.特にミズナラやコハウチワカエデなどの高木性樹種の被害は小さかった.また,林床にはアカマツの実生はほとんど見られず,発芽個体も全て1年以内に枯死した.全天写真で推定した林床の光環境は,林冠の被害が最も大きかったプロットで林冠閉鎖率が52.7%まで低下したが,その後は各プロットで毎年1~11%ずつ林冠閉鎖率が増加していた.このことから,林床が明るくなったプロットでも数年で噴火前の状態に戻ると推測された.以上の結果から,本調査地ではアカマツが枯死した後に再び更新できるとは考えにくく,今回の噴火をきっかけにミズナラやコハウチワカエデを中心とした落葉広葉樹林に遷移する可能性が高いと判断された.一般に火山噴火による撹乱は植生遷移を退行させるという報告がほとんどである.しかし,火口からの距離や噴火のタイミングによっては遷移を促進する可能性があることを本研究は示唆している.


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